到来顛末記・調査プロセス1999.10.30

■【北川芳能(雅楽能)先生 資料到来顛末記】

ミカン箱にすれば7箱分の本と天井よりながーい245センチの十七絃が突然狭い3LDKのマンションにやってきたのですから大変。その上楽譜を複写するために大型コピー機まで借りたのですから想像してください。
 先ずは、苦手をいいことに忙しすぎて片づけも儘ならぬと「えん」始めて以来の10年間の資料の整理、いらぬ荷物は夫の田舎の蔵へ引っ越し。おかげで娘は荷物が来てから家がどんどんきれいになると喜ぶが。コピーを始めてから熱と咳が日毎にきつくなり寝込む始末、原因は、たとえ綺麗に遺族の方が保存されていまとは言え、本の中にはびっちりとカビガ蔓延っていたのです。坊黴マスクと強風の扇風機を回しながらの作業。御用聞きの人が最近はいつもマスクのまま出るのでびっくり。
 でも何より嬉しいことは、姉妹弟子の対応です。妹弟子である私のの所に恩師の大切な遺品が来たのに揃いも揃って「良く引き受けてくださったね、貴方で良かった、いつでも手伝いに行きますからね」と各々名目をつけて寸志を送ってくださり、また、皆で陣中見舞いだと言って来てくださり、楽しく楽譜を見たり、懐かしく時間の経つのも忘れて過ごしております。
「えん」えんえん・・・は恵まれすぎていますね。


 私が17年間に習った曲はほんの僅かで、これだけ沢山の曲があったことは驚きました。どのようにしてこれだけの曲を習得されたのか不思議で、遺族の方にプロフィールを探して戴きました(20年前はプロフィールを書くことは殆どなかったのです)。6才6月6日に
お箏を習い初め、9才でメッテル師にピアノを、10才で東儀定一郎師にバイオリンを習われ、村松かなこ師・井原検校に師事、宮城道雄師・久本玄智師・富崎春昇師に師事、そして昭和の始め、宮城道雄師・田辺尚雄師・中尾都山師・中之島雅楽之都師達と新日本音楽運動に日本各地を歩くとプロフィールに書かれています。メッテル師の本を見るとまだその頃には来日されていなく、調べないと分かりません。
 先生のご性格から、習われたものしか五線譜に書いておられないと確信がありますが40人超える作曲者達とはどのように接触があったのでしょう。多くの姉弟子や内弟子におられた方達から聞き始めています。昭和12年頃に内弟子に入っておられた方の話では、京都で唯一新曲をされる先生として作曲家達は新作を弾いていただきたいと持ってこられたようです。また、町田嘉章師・金森高山師は先生宅にまめに通われ作曲の相談に来られたようです。
 古典曲は井原検校師が没後、山口検校・津田青寛師に習われ、大阪の曲は菊原検校師の本や曲も多く、初子先生とは生涯交際しておられたので出入りされていたのかも知れません。また菊田歌雄先生とは親しくされていたようです。
 やっとリストの完成間近になってきましたが、先生が亡くなられた頃に本箱より出されておられたと思われる曲が含まれていないのが分かってきました。


○北川資料・五線譜リストの配布
「あいうえお」順と作曲者別のリスト、パート構成など明記、コピーで製作、11月20日までにご希望の方はお申し込み下さい。30部のみ。
4000円(コピー・製作代2000円・維持費1000円、ご仏前1000円)


 資料が手元に来て3カ月の間に貴重なこの資料は日毎に色んな動きを見せています。マスコミは、NHKテレビ・ラジオニュースで、産経新聞、「上方芸能」、これから毎日点字新聞で特集記事、邦楽ジャーナルと続きます。今後は研究者は研究材料に、プロの奏者は資料に基づいた復元コンサートに、私はちゃらんぽらんな性格ですから、小難しいことは抜きで楽しみの復元コンサートを開こうと思っています。夢は大正時代の建物を使い、楽器も玲琴・先生の十七絃・その頃の尺八・生田のお箏を使った復元コンサート。
さてお客様はどうしましょう。着物でしょうか。照明は舞台美術は・・ 全体像を書きますと古典曲はそんなに珍しいものはありませんが、五線譜で書かれている為、例えば「四段砧」や「八重衣」等の三絃二重奏などの名曲が他の楽器による面白い展開が期待できます。
「黒髪」や「鶴の声」の替え歌がありますが「黒髪」は「四季の園」というタイトルで歌詞は《柿も咲き 梅も咲き柳もなびく春風に園の桜の香りこそ 仰ぐみ空に 満ち渡れ 垣根に残る雪かと見しは 闇のうつぎの花とも知らず 声も更け行く ほととぎす・・》
 新日本音楽運動の作曲者達の編成はバイオリン・ビオラ・チェロ・玲琴・大玲琴・提琴(バイオリン?)が盛んに使われています。
次は金森高山・町田嘉章・田辺尚雄各師の作曲名と編成を書きます。

◆前回のリストの名前の訂正
 中之島欣一→中能島 楯城誠→護 宮下秀洌→冽 斎藤松声→聲
◆追加(10月24日現在)
 田邊禎一(尚雄) 津田青寛 蔭山滸山 萩原正吟 富山清琴
 柴田聖山 塩田芦風 衛藤公雄 坂本勉 森下利幸